大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2523号 判決

主文

控訴人の当審における訴え変更後の請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  被控訴人は控訴人に対し金六、九五〇万九、五〇二円及びこれに対する昭和五八年五月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

二  被控訴人

主文と同旨の判決。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち番号1の土地は訴外杉本満義の、同2から7までの土地は訴外杉本茂雄の、同8の土地は訴外杉本守の、同9から12までの土地は訴外坂本虎雄の、同13から21までの土地は訴外坂本実の、同22の土地は訴外中村藤太郎の各所有に属していたところ、控訴人は、直接杉本満義から昭和四三年五月五日、訴外株式会社双葉商事名義で杉本茂雄から昭和四一年四月七日、杉本守から同年同月九日、坂本虎雄、坂本実から同年同月七日、中村藤太郎から昭和四三年三月一五日、それぞれ右当該土地を買い受けたのであるが、これらはいずれも農地であつて、神奈川県知事の農地法五条の規定による許可を得ていなかつたので、それぞれの土地について昭和四三年一〇月二九日までに控訴人を権利者とする所有権移転請求権仮登記手続をした。

2  控訴人は、昭和四四年一〇月二七日、被控訴人から金一、五〇〇万円を、期間二か月、利息月三分の約定で借り受けたところ(ただし、その際、向う二か月分の利息として金九〇万円、手数料として金一五〇万円、計二四〇万円が天引きされた。)、その支払を担保するため、被控訴人に対し、控訴人が前記各前所有者との間の売買により本件土地について取得した権利をいわゆる譲渡担保として譲渡し、被控訴人のため前記所有権移転請求権仮登記につきその移転の付記登記手続をした。

3  その後、被控訴人は、農地買受適格者である訴外石井信義に依頼して、同人の名義で本件土地につき神奈川県知事の農地法三条の規定による許可を受けたうえ、前記各前所有者からの仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をした。

4  そして、控訴人の調査によると、被控訴人は、前記担保権の実行として、昭和五七年五月一〇日、訴外小山和男に対し本件土地を坪当り金七万円ぐらいで売り渡していることが判明したところ、本件土地の面積については争いがあるが、被控訴人主張の二、一二六坪によつても、その代金は金一億四、八八二万円となる。

5  ところで、天引きされた分を除くと、前記借受金の元金は金一、二六〇万円であり、右元金とこれに対する貸借の日から昭和五八年四月三〇日までの利息制限法所定の制限の範囲内の利息との合計額は金二、五五三万〇、四九八円である。また、被控訴人は、控訴人の坂本実に対する前記当該土地の残代金五八万円を支払つており、小山和男との間の右売買について仲介の労をとつた訴外北向敏雄に対し手数料として金四〇〇万円を支払つている。そこで、本件土地の前記代金額から右各金員を差し引くと、その残額は金一億一、八七〇万九、五〇二円であり、したがつて、被控訴人は控訴人に対し、担保権の実行に伴う清算金としてこれを支払う義務がある。

6  よつて、控訴人は被控訴人に対し、右残額のうち金六、九五〇万九、五〇二円とこれに対する請求の趣旨等変更申立書送達の翌日である昭和五八年五月一二日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実のうち、本件土地につき控訴人を権利者とする所有権移転請求権仮登記手続がされたことは認めるが、控訴人主張の当該土地の買受人が控訴人であること及び買受けの年月日は争う。

2  同2の事実のうち、控訴人がその主張の日に被控訴人から金一、五〇〇万円を期間二か月の約定で借り受けたこと、その際、控訴人が被控訴人に対し、右借受金の支払を担保するため、本件土地についてその各前所有者との間の売買により取得した権利をいわゆる譲渡担保として譲渡し、被控訴人のため前記所有権移転請求権仮登記につきその移転の付記登記手続をしたことは認めるが、その余は否認する。

本件貸金に対する約定利息は月五分であり、被控訴人が右貸金から天引きしたのは向う二か月分の約定利息金一五〇万円のみであり、被控訴人は控訴人に対しその残額金一、三五〇万円を交付したものである。なお、右消費貸借においては、期間及び利息のほか、期限後の遅延損害金を月五分とする旨の定めがあつた。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実のうち、被控訴人が控訴人主張の日に小山和男に対し本件土地を売り渡したことは認めるが、その余は否認する。

右代金は金七、五〇〇万円であり、小山との売買においては代金についていわゆる裏取引などは全くなかつた。

5  同5の主張は争う。

(被控訴人の主張)

1  本件土地の売買代金が金七、五〇〇万円であることは前記のとおりであるところ、これと被控訴人の控訴人に対する前記貸金との清算を行うためには、まず、担保権の実行に要した費用等として次の金員が右代金額から差し引かれるべきである。

(1) 被控訴人が昭和四八年二月三〇日前所有者に対して支払つた前記当該土地の未払残代金、杉本茂雄に対する分金二九万円、坂本虎雄に対する分金五万円、坂本実に対する分金二六四万五、〇〇〇円、計二九八万五、〇〇〇円。

(2) 被控訴人が昭和四七年三月九日から同四八年二月五日までに三回にわたり訴外伊勢原農業協同組合に対して支払つた坂本実の同農業協同組合からの借受金二〇〇万円に対する利息金二八万八、九〇二円(右利息は、土地買受けの際、控訴人が坂本に対し、自己の負担で同人に代つて支払うことを約したものである。)。

(3) 本件土地について仮登記に基づく本登記手続をするため、被控訴人が昭和四七年二月九日から同四八年二月三日までに三回にわたり前記各所有者に対して支払つた協力金四八六万五、〇〇〇円。

(4) 本件土地の売却処分の準備のためにした測量及び売却処分の際にした調査、測量並びに分筆、合筆、境界復元調査等に要した費用として土地家屋調査士芹沢保夫に対して昭和四七年三月三一日支払つた分測量関係金四九万六、九七〇円、昭和五七年二月支払つた分筆、合筆等の関係金五八万〇、六五〇円、訴外有限会社杉本測量に対して昭和五七年三月支払つた分金一〇万九、八〇〇円、計一一八万七、四二〇円。

(5) 本件土地の売却処分のためにはこれに至る道路を設置する必要があつたところ、その用地の取得及び道路整備工事に要した費用として訴外杉本敏雄に対して昭和五七年三月一五日支払つた伊勢原市上粕屋字中丸二、五二〇番二、宅地三四・四四平方メートルの売買代金二〇八万二、〇〇〇円、訴外坂本栄蔵に対して右同日支払つた同所二、五二三番一四、畑四・八一平方メートルの売買代金二九万円、訴外有限会社坂本組に対して昭和五七年二月二〇日支払つた道路整備工事の代金一八〇万円、計四一七万二、〇〇〇円。

(6) 石井信義の名義を借りて本件土地につき所有権移転の本登記手続をしたことについて、同人に対して支払つた謝礼金七五〇万円(控訴人から担保提供を受けた後、本件土地は市街化調整区域に組み入れられ、その所有権移転につき神奈川県知事の農地法五条の規定による許可を受けることができなくなつた。そこで、被控訴人は、これに代る便法として、農地買受適格者である石井信義に依頼して同人の名義で右知事の農地法三条の規定による許可を受けたうえ、仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をしたものである。これは、早期に本登記手続をしておかないと、前記各前所有者に対する農地法の規定による都道府県知事の許可申請協力請求権の時効消滅の問題や、その後の地価の上昇を理由に前所有者がいわゆる「判子代」を請求するという事態が発生しかねないことを慮つたからであり、被控訴人にとつては担保権の確保のために不可欠の事柄であつた。)。

(7) 小山和男との間の売買の仲介の労をとつた北向敏雄に対して昭和五三年五月一〇日支払つた手数料金四〇〇万円。

以上の費用等の合計金額は金二、四九九万八、三二二円であり、本件土地の前記売買代金額からこれを差し引くと、残額は金五、〇〇〇万一、六七八円である。

一方、前記消費貸借の際に利息として天引きした金一五〇万円を利息制限法所定の制限に従い期限までの利息及び元金に充当計算すると、支払期日である昭和四四年一二月二七日現在の元金残高は金一、三八八万五、〇〇〇円であり、これに対する翌二八日から小山和男との間の売買の日である昭和五七年五月一〇日までの利息制限法所定の制限の範囲内である年三割の割合による遅延損害金は金五、一五一万四、七三八円である。双方の合計金額は金六、五三九万九、七三八円となり、したがつて、控訴人に対して支払うべき清算金は存在しない。

2  仮に控訴人に対して支払うべき何がしかの清算金があるとしても、控訴人は、昭和四五年一月六日、被控訴人に対し、控訴人側に不信行為が認められる場合には、本件土地をどのように処分されても異議はない旨を記載した同日付の「請願並誓約書」と題する書面を差し入れ、被控訴人に対する不信行為を停止条件として、清算金請求権を放棄し、その支払を求めない旨を約したものである。そして、控訴人の代表者である岡田寿美江は、昭和四五年二月二四日までに土地売買代金名下に金七六〇万円を、同年三月二三日ごろ、同じ方法で金一五九万円をそれぞれ被控訴人から詐取したのであり、これは被控訴人に対する不信行為であるから、遅くも昭和四五年三月二三日には右停止条件は成就した。仮に、右詐取の事実だけでは停止条件が成就したことにはならないとしても、控訴人は被控訴人から再三の請求にもかかわらず、前記消費貸借による借受金債務を履行せず、いつたんは昭和五二年五月三一日までに支払うことを約しながらこれを怠つたものであり、このような長期間にわたる債務不履行は右詐取の事実と併せて被控訴人に対する不信行為に当り、右期限の経過により停止条件は成就した。仮に、右期限が、被控訴人が本件土地の一部について第三者との間でした交換契約を解除し、交換に供した土地をもとに戻すまで延期されたとしても、これは昭和五三年一月三日ごろにすべて履行されており、控訴人に対しその旨通知されているのに、その後も右借受金の支払は全くされていないのであるから、遅くも昭和五三年一月末日には停止条件は成就した。そのほか、控訴人は、被控訴人と共同で実施しようとした茅ケ崎市茅ケ崎字梅田地区の宅地造成分譲に関する契約に関連してその理由がないことが明らかなのに、被控訴人を相手方として金一億円の支払を求める不当な訴訟を起こしており、これも被控訴人に対する不信行為である。

三  被控訴人の主張に対する反論

1  被控訴人と小山和男との間の本件土地の売買については表契約と裏契約とがあり、売買代金は前者では一括して金七、五〇〇万円とされているが、後者では坪当り平均七万円であつたとの由である。このように、右売買について裏契約があつたことは、昭和五八年四月一日の官報に掲載された全国各地の土地価格によれば、本件土地に近い土地の坪当り価格は金五万円とされており、実際にはそれより遥かに高い価格で取引されるのは世間一般の常識であること、表契約の金七、五〇〇万円という金額は時価相場の半額程度にすぎないことに徴しても明らかである。また、仮に本件土地が現実に金七、五〇〇万円で売買されたものとすれば、その処分価格は適正なものとはいえず、担保権の実行に伴う貸借関係の清算は、目的物件の現実の処分価格によるのではなく、客観的な適正価格によつてするのが相当である。

2  被控訴人が前記(1)から(7)までに主張する費用等は、その極く一部を除き担保権の実行のため必要なものではない。すなわち、(1)の未払残代金のうち、杉本茂雄、坂本虎雄に対する関係では控訴人において売買代金の全額を支払つており、未払分はなく、坂本実に対する関係では金五八万円が未払となつていたにすぎない。したがつて、これを超える分については、支払の必要はなかつたものである。被控訴人は、控訴人に金一、五〇〇万円を貸し付ける際、これから坂本実の伊勢原農業協同組合に対する借受金の支払に当てるものとして金二〇〇万円を天引きしており、直ちにこれを元金の支払に当てていれば、(2)の利息金は発生しなかつたのである。それにもかかわらず、支払を遅延したため右利息金が発生したのであるから、これは本来被控訴人の負担に帰すべきものである。(3)の協力金は、被控訴人が無理に急いで本件土地につき所有権移転の本登記手続をしようとしたため支払を余儀なくされたものであり、担保権実行のためには必ずしも支払の必要はなかつた。被控訴人と小山和男間の本件土地の売買は、面積は登記簿上のそれにより、土地の状態は現状有姿という条件でされたのであるから、(4)の調査測量等の費用の支出は右売買のためには必要がなかつたはずであり、調査、測量等が実施されたのが事実とすれば、それは何かほかの目的のためのものと思われる。本件土地にはもともと控訴人が設置したこれに至る幅員六メートルの道路が存在しており、(5)の道路用地取得等の費用の支出は本件土地の売却処分のためには必要がなかつた。とくに、有限会社坂本組に対して支払つた工事代金は本件土地に近い別の土地を造成した際の工事費用であつて、道路整備工事などは全く行われていない。控訴人が担保に提供したのは所有権移転請求権仮登記によつて公示される権利であつて、当初から被控訴人によつて本件土地につき所有権移転の本登記手続がされることは予定していないことである。担保権は右本登記手続をしなくても実行できるのであり、被控訴人が本登記手続したのはその恣意的判断によるものであつて、(6)の謝礼金は担保権の実行のために必要なものではない。(7)の手数料は通常取引価格の三パーセント以下のはずであり、売買代金が金七、五〇〇万円であるとすれば、金二二五万円を超えることはない。

3  前記金一、五〇〇万円の借受金については期限後の遅延損害金を支払う旨の約定はなく、元金が期限後長期間にわたつて支払われなかつたのは、その支払に関し控訴人が和解の交渉をもちかけても、被控訴人が理由をつけては引き延ばしたからであり、控訴人において年三割もの高率の遅延損害金を支払うべきいわれはない。

4  被控訴人主張の「請願並誓約書」と題する書面は控訴人の代表者が作成したものではなく、何人かによつて偽造されたものである。また、右書面は、その文面からして茅ケ崎市茅ケ崎字梅田地区の土地の共同造成分譲についてのものであり、前記金一、五〇〇万円の消費貸借とは何ら関係がない。仮に、控訴人が被控訴人に対し右書面を差し入れることにより被控訴人主張のことを約したとしても、それは本件土地の処分について一切の権限を託したにすぎず、処分された場合の清算金請求権まで放棄する趣旨のものでないことは明らかである。また、清算金請求権が現実に発生する以前にこれを放棄する旨を約することは、いたずらに権利者のみを利するものであつて、公平の原則に反し無効である。

第三  証拠(省略)

理由

一  いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、第二号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし五、第一二、第一三号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし六、八九、第一七号証の一八、二一、当審における控訴人代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、もと本件土地のうち別紙物件目録記載番号(以下単に「番号」という。)1の土地は訴外杉本満義の、同2から7までの土地は訴外杉本茂雄の、同8の土地は訴外杉本藤治の、同9から12までの土地は訴外坂本虎雄の、同13から21までの土地は訴外坂本実の、同22の土地は訴外中村藤太郎の各所有に属していたところ、控訴人は昭和四三年五月五日杉本満義から右1の土地を、同年三月一五日中村藤太郎から同22の土地(ただし、当時の登記簿上の所有名義人は杉本茂雄となつていた。)を、訴外株式会社双葉商事は昭和四一年四月七日杉本茂雄から同2から7までの土地を、同年同月九日杉本藤治から同8の土地を、同年同月七日坂本虎雄から同9から12までの土地を、同じ日に坂本実から同13から21までの土地を、それぞれ農地法五条の規定による神奈川県知事の許可を条件として買い受けたこと、そして、控訴人は、昭和四三年三月一五日、株式会社双葉商事から同会社と杉本茂雄、杉本藤治、坂本虎雄、坂本実との間の右当該土地についての売買における買主たる地位の譲渡を受けたが、右土地はいずれも農地であつて、神奈川県知事の右許可を得ていなかつたので、前所有者から直接買い受けた右1、22の土地を含む全部の土地について同年一〇月二九日までに控訴人を権利者とする所有権移転請求権仮登記手続をしたこと(ただし、右仮登記手続をしたことは当事者間に争いがない。)が認められ、これに反する証拠はない。

二  次にいずれも成立に争いのない甲第八号証(乙第五号証)、乙第六号証、当審証人小山和男の証言及び当審における被控訴人代表者尋問の結果とこれらにより真正に成立したと認められる乙第一四号証、当審証人北向敏雄の証言、当審における控訴人代表者尋問の結果の一部並びに弁論の全趣旨によれば、

1  控訴人は、昭和四四年一〇月二七日、被控訴人から金一、五〇〇万円を、支払期日同年一二月二七日と定めて借り受けたところ、被控訴人は支払期日までの利息として金一五〇万円を天引きし、残余の金一、三五〇万円を交付したこと(ただし、この点は天引きした利息等の金額を除いて当事者間に争いがない。)、

2  その際、控訴人は、右借受金の支払を担保するため、被控訴人に対し、控訴人が株式会社双葉商事を経由したのも含めて前記各前所有者との間の売買により本件土地について取得した権利をいわゆる譲渡担保として譲渡し(ただし、番号22の土地がその目的となつた証拠はないので、以下の説示ではこれを除く。)、被控訴人のため前記所有権移転請求権仮登記につきその移転の付記登記手続をしたこと(ただし、この点は当事者間に争いがない。)、

3  そして、期限が経過した後も前記貸金の返還がなかつたところ、被控訴人は、本件土地が市街化調整区域に組み入れられていて、これにつき神奈川県知事の農地法五条の規定による許可を受けることができなかつたため、農地買受適格者である訴外石井信義に依頼して、同人の名義で本件土地につき右知事の農地法三条の規定による許可を受けたうえ、前記各前所有者からの仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をしたこと(ただし、このうち、石井信義に依頼して、同人の名義で本件土地につき右知事の許可を受けたうえ、仮登記に基づく本登記手続をしたことは当事者間に争いがない。)、

4  そのあと、おおよそ一〇年を経過した昭和五七年五月一〇日、被控訴人は訴外小山和男に対し本件土地を金七、五〇〇万円で売り渡したこと(ただし、この点は売買代金の金額を除いて当事者間に争いがない。)、

以上の事実が認められ、当審証人八木武美、同山下貢の各証言及び当審における控訴人代表者尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく措信し難く、ほかにこれに反する証拠はない。

三  ところで、控訴人は、本件土地についての控訴人と被控訴人間の右認定の譲渡担保契約がいわゆる処分清算型のものであることを前提として、被控訴人と小山和男間の右売買は担保権の実行としてされたものである旨主張する。

しかしながら、前示甲第八号証(乙第五号証)、いずれも成立に争いのない乙第一ないし第四号証、当審における被控訴人代表者尋問の結果によれば、

1  右担保契約においては、貸金の支払期日については双方で協議のうえ、延長することができるとする一方、期限までに貸金の返還をしないときは、担保の目的である本件土地についての権利は、終局的に貸主である被控訴人に帰属し、この場合、借主である控訴人は被控訴人に対し本件土地につき所有権移転の本登記に必要な手続をするとともに、本件土地を引き渡す旨の約定が交されていたこと、

2  そして、期限が経過しても前記貸金は返還されない状態になつていたところ、被控訴人は控訴人に対し昭和四六年三月三一日付、同日高輪郵便局差出しの内容証明郵便(同郵便は差出日から遅くとも三日後に相手方に到達したものと推認される。以下これに同じ)で元金一、五〇〇万円とこれに対する昭和四四年一二月末日から同四六年四月末日まで日歩六銭の割合による遅延損害金を右同日までに支払うよう催告したが、控訴人からは、同年四月二七日付、同二九日茅ケ崎郵便局差出しの内容証明郵便で、返済の目途はついたが、支払は催告の期限より若干遅れる旨の回答があつたのみで、右回答には支払の時期は明示されていなかつたこと、

3  そこで、被控訴人は、再度、控訴人に対し昭和四六年五月四日付、同日高輪郵便局差出しの内容証明郵便で、同月二〇日までに右貸金を返還するよう催告するとともに、期限までに支払がないときは、前記約定に従い本件土地を被控訴人の所有とするので、その所有権移転及び引渡しに必要な書類を提供するよう求めたこと、

4  しかしながら、右催告期限までに支払はなく、控訴人からは昭和四六年五月二〇日付、同二二日茅ケ崎郵便局差出しの内容証明郵便で、さらに期限を猶予してほしい旨の回答があつたにすぎなかつたこと、

5  そこで、被控訴人は、前記約定とこれに基づく右昭和四六年五月四日付、同日高輪郵便局差出し(したがつて、同月七日被控訴人に到達したと推認)の内容証明郵便による意思表示により本件土地は被控訴人の所有に帰したものとして、前記のとおり、本件土地につき石井信義の名義で所有権移転の本登記手続をしたものであること、

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、控訴人と被控訴人との間の前記譲渡担保契約は、期限までに被担保債務が履行されなかつたときは、債権者においてその履行に代えて担保の目的を取得できる趣旨の、いわゆる帰属清算型の譲渡担保契約であつて、控訴人がその各前所有者との間の売買により本件土地について取得した権利は、被控訴人の前記昭和四六年五月四日付内容証明郵便による譲渡担保権行使の意思表示が同年同月七日被控訴人に到達したことにより終局的に被控訴人に帰属したものというべきである。してみると、被控訴人と小山和男間の本件土地の売買は、右権利が終局的に被控訴人に帰属した後にされたものであつて、譲渡担保権の行使としてされたものではなく、右権利についての貸借関係の清算は、譲渡担保権行使の意思表示が被控訴人に到達した昭和四六年五月七日の時点を基準として、当時の右権利の適正な価格と前記消費貸借における元金及びこれに対する支払期日の翌日から右同日までの遅延損害金との間でされるべきであるところ、この場合の清算金の有無及びその金額につき控訴人は何らの主張・立証をしないのである。

四  してみれば、控訴人の当審における訴え変更後の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

物件目録

1 伊勢原市上粕屋字中丸二五二四番四

畑   三八六平方メートル

2 同市同字二五一三番二

田   一八五平方メートル

3 同市同字二五二二番二

畑   一四六平方メートル

4 同市同字二五二二番五

畑    七一平方メートル

5 同市同字二五二三番四

畑 一、六七六平方メートル

6 同市同字二五二三番九

畑    五八平方メートル

7 同市同字二五一五番

田   二七四平方メートル

8 同市同字二五二四番三

畑   四九五平方メートル

9 同市同字二五二三番五

畑    五四平方メートル

10 同市同字二五二三番一

畑   一三六平方メートル

11 同市同字二五二四番五

畑   二二八平方メートル

12 同市同字二五二四番一一

畑   五〇八平方メートル

13 同市同字二五二二番一

畑 一、一一三平方メートル

14 伊勢原市上粕屋字中丸二五二二番三

畑    五七平方メートル

15 同市同字二五二二番四

畑   四七八平方メートル

16 同市同字二五二四番六

畑   六八六平方メートル

17 同市同字二五二四番一二

畑   一二九平方メートル

18 同市同字二五二三番三

畑   七〇四平方メートル

19 同市同字二五二三番八

畑    八一平方メートル

20 同市同字二四九九番二

田   二四七平方メートル

21 同市同字二四九九番三

田   一一九平方メートル

22 同市同字二五一二番

田 一、〇五一平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例